アメリカ連邦議会上院で、原油市場に対する投機資金
の規制を強化する「石油取引透明化法」(Oil Trading
Transparency Act)が検討されている。法案は、2
人の民主党議員が提案している。
国際石油価格は、アメリカの代表的な原油であるウェス
ト・テキサス・インターミディエイト原油(WTI)の石
油先物の価格で決まる。WTIの先物は、ニューヨーク商
品取引所(NYMEX)に上場しているが、同じ先物商品
は、ロンドンにあるICE(Intercontinental Exchange)
という企業が運営するネット上の先物取引市場でも取り引
きされており、アメリカのヘッジファンドや投資銀行は最
近、ニューヨークのNYMEXだけでなく、ロンドンのI
CEを通じて、さかんにWTI先物を買い、原油価格を高
騰させている。
NYMEXはアメリカの市場なので、そこでの先物取引
は、米政府の商品先物取引委員会によって監視され、投機
的な行為は取り締まられる。だがロンドンのICEは、外
国の民間企業による相対取引の市場なので、米政府の監視
の枠外にある。投機で原油をつり上げたい米投機筋(ヘッ
ジファンドや投資銀行)は、ロンドンのICEで先物を売
買し、米当局の目を盗んで意図的に原油価格をつり上げ、
ぼろ儲けしており、規制が必要だ、というのが2人の上院
議員の法案提出の理由である。
米議会上院ではすでに、2006年6月に作られた報告
書で「投機資金は2000年から原油先物相場をつり上げ
ている」「WTIの先物取引の30%はロンドンICEで
取り引きされている」と指摘されていた。しかし、米政府
は上院報告書をほとんど無視し、何の対策もとらなかった。
この問題を指摘した石油・地政学専門家のウィリアム・
エングダールによると、現在の国際原油価格のうち最大で
60%が、投機筋によるつり上げ効果によるものだという。
WTIはアメリカ産の石油種であるため、ロンドンのIC
Eが、WTI先物を自社の市場で取り引きする商品の中に
加えるに当たっては、米当局の認可が必要だったが、ブッ
シュ政権は2006年1月、この認可を出している。その
後WTIの高騰が激しくなり、同年6月に上院が投機を警
告する報告書を出したが、米政府は無視した。ブッシュ政
権はまるでWTIを高騰させることを意図したかのように、
投機筋にICEという抜け穴を作ってやった、とエングダ
ールは書いている。
エングダールの分析が正しいとしたら、現在1バレル1
20ドルを超えているWTIの価格は、投機を排除すれば、
50ドル程度まで下がりうることになる。
ロンドンのICEでの原油先物取引は、当局の監視外で
行われる相対取引が膨大な額になり、現物市場に悪影響を
与えている点で、昨夏以来の金融危機の原因となったサブ
プライム住宅ローン債券の市場と似ている。サブプライム
の債券は、現実の住宅ローン債権を、銀行の簿外という当
局の監視外の領域で、相対取引で売買し、取引が昨夏まで
急拡大していた。いずれの問題も、当局が市場規模すら把
握できない金融派生商品の「私設市場」での取引が肥大化
した末に起きている。

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